光を通して分子のふるまいを映し出す、アクアフォトミクス
一見、ただの透明な液体、水。しかし水は、溶けている物質の種類や物質との距離、温度などによって、その状態を刻々と変えています。このようにとらえどころのない水の姿を、光を使って調べる研究が進んでいます。
近づき、離れ、踊る水
静かに置いたコップの中の水をじっと観察してみましょう。透き通ったその液体は、私たちの目には何も変化していないように映ります。でも実際には、水分子がお互いに近づいたり離れたり、分子の中でも水素原子と酸素原子の位置関係が揺れ動いていたりと、私たちの目には見えないかたちで水分子は踊り続けています。この水の動きを、光を使って観察することで調べようというのが、アクアフォトミクス※という研究分野です。
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アクアフォトミクスは、本プロジェクトの共同研究者であるツェンコバ教授(神戸大学)により開発されました
光は水の動きを教えてくれる
波長が800〜2500nm(ナノメートル;1nmは1mの10億分の1の長さ)の光をあてると、水は温度や、溶けているものによって、その光の吸収具合を変えます。そのため、調べたい対象が光をどのように吸収するかを調べることで、水の状態を推測することができるのです。

アクアフォトミクスの研究では、いろいろなものが溶けた溶液を用意し、それぞれがどんな波長の光をどれだけ吸収するのかを網羅的に測り、情報をデータベース化しています。このデータベースがあれば、未知の溶液に光を当てて、どの波長の光がどれだけ吸収されるかを調べるだけで、その溶液の中にどの物質があるのかを推測できるようになります。分子の状態を映し出す鏡のように水を用いるこの手法を、ウォーター・ミラー・アプローチと呼んでいます。


水の状態を調べて健康にいかす
まず注目されているのは尿です。尿は体内から定期的に排出され、痛みもなく取得することができます。私達がとりこんだ食べ物や薬は体内で分解され、尿として排出されるため、そこにはからだに関するさまざまな情報が含まれています。アクアフォトミクスの研究が進めば、未知なる水と健康の関係が明らかになるでしょう。もしかすると、病気の予測もできるようになるかもしれません。
