慶應義塾大医学医学部

サントリーグローバルイノベーションセンター

Q&A 水の研究室

入門編

生命をめぐる水プロジェクト はじまりの物語

なぜ慶應とサントリーが いっしょに研究しているのですか?

安井米国から慶應義塾大学に着任した頃、サントリーのコーポレートメッセージが「水と生きるサントリー」であることを初めて知りました。その時の感動を今でもよく覚えています。その瞬間、私たちの研究が目指しているところ、すなわち「Water Biology」と共通する具体的なイメージが私の中で明確になってきました。
芦刈「水と生きるサントリー」というメッセージには、「水に生かされ、水を生かす企業として持続可能な社会の実現に寄与していきたい」との願いが込められています。そうした願いを実現するための活動としては「サントリー天然水の森」プロジェクトがあって、科学的な根拠に基づく森林の保全を通して、持続可能な地下水資源の実現に取り組んでいます。けれど、先生が感じられたように、「水と生きる」という言葉は体の中の水についても当てはまりそうだと感じました。
芦刈サントリーはお客様に様々な飲料をお届けしていますが、その飲料のほとんどは水からできています。体の中をめぐる水についての研究に取り組んでいる安井先生と出会い、ヒトにとっての体の中の水を理解することの重要性をさらに深く知ることになりました。そして、飲料をお客様に提供する企業として、口から体内に取り込まれた水が体の中をどのようにめぐっていくのか、他のどの企業よりも深く理解している必要があるのではないかと、強く思うようになりました。
安井共同研究プロジェクト「生命をめぐる水」のスタートにあたり、いくつもの運命的な出会いがありました。一緒に共同研究を進めていくことで、私たちにとって「なぜ水が必要なのか」、「生きていく上で水がどのような役割を担っているのか」に対する理解を深め、しっかりとした科学的根拠を提唱しながら、皆で水の大切さを考えていきたいと願っています。

関連するページ:「生命をめぐる水とは」

私たちの体と水の関係は?

私たちの体は、細胞がたくさん集まってできています。細胞の中は水で満たされていて、体全体の水の3分の2は細胞の中にあります。細胞の中では核やミトコンドリア、ゴルジ体などの細胞小器官をはじめ、さまざまなものが水に囲まれて存在しており、水を介して物質をやりとりしています。細胞の外の水として血液やリンパ液の中の水がありますが、細胞と細胞の間にも水が満たされています。私たちを構成する物質はすべて、水とともにあるといっても過言ではありません。

体の中で水はどんなはたらきをしますか?

大きく分けて3つの役割があります。

  1. 生化学反応の場

    体内で起こる生化学反応は水に溶けた状態で進行し、細胞活動を維持しています。

  2. 栄養素の輸送及び老廃物の排泄のための溶媒

    体の隅々の細胞まで酸素や栄養素を運びます。また、生化学反応により生成した老廃物を体外に排泄するために運んでいきます。

  3. 体温調節

    たとえば、汗は蒸発するときに熱を奪うので皮膚表面の温度を下げる、などの仕組みにより体温調節がなされています。

ヒトの体において水が占める割合は?

ヒトの体のおよそ60~70%は水でできていいます。細かくみると、胎児では体重の約90パーセント、新生児で約75パーセント、子どもで約70パーセント、成人では約60~65パーセント、高齢者では50~55パーセントが水で占められています。また、ヒトだけでなく、地球上のあらゆる生物は体内で水を利用しており、生物が生きていく上で水は欠かせない物質であることがわかります。

体の中のどんなところに水があるんですか?

体の中の水は、大きく2つに分けることができます。それは、細胞内液と細胞外液です。細胞内液とは名前の通り、体を構成している無数の細胞(大人で約100兆個)の中にある水です。細胞外液とは、血液やリンパ液の他、細胞と細胞の間にある間質液などのことです。

水を飲まずにヒトはどれだけ生きていられますか?

ヒトは水さえあれば、食べものがなくても2~3週間程度は生きていくことができます。一方で、水なしでは4~5日で命を落としてしまいます。呼吸や体温調節、分解物(老廃物)の排出など、生命機能を維持するためにヒトは絶えず水分を体の外に排出しており、生きていくためには、体が失った水分と同量の水分を補充する必要があるのです。

体の中の水分が減るとどうなりますか?

体重の約2パーセントの水分が失われただけでも、口やのどの渇きだけでなく、食欲がなくなるなどの不快感に襲われます。約6パーセント不足すると、頭痛、眠気、よろめき、脱力感などに襲われ、情緒も不安定になってきます。さらに、10パーセント不足すると、筋肉の痙攣が起こり、循環不全、腎不全になってしまいます。

体内に取り込む水、体外へ排出する水にはどのようなものがありますか?

体内に取り込む水は、飲み物および食べ物から摂取する水と、体の中で栄養素がエネルギーに変わるときにできる代謝水があります。一方、体外へ排出する水は、尿や糞便を通じて行われますが、それだけでなく、汗となって皮膚から蒸発する水分、また吐く息にも水分が含まれています。

脱水症状はどんなときに起こるんですか?

私たちは、体に入ってくる水の量と体から出ていく水の量が等しくなることで体液のバランスを維持しています。したがって、体に入ってくる水よりも、出ていく水の方が多いときに脱水症状が起こります。たとえば、暑くて汗をたくさんかくような日に水を飲む量が少なかったり、下痢や発熱、嘔吐が続いたときに水分を取らなかったりすると、脱水症状が起きやすくなります。

よく水を飲むことがなぜ大切なのでしょうか?

人の体は体重のおよそ60~70パーセントが水分で構成されています。そのうちの数パーセント(量にして約2.5リットル)が1日で失われています。水は生命維持のため、体の中を絶えず循環しており、汗や尿として出ていくときは体にとって不要な老廃物を一緒に流し出してくれます。それらの出ていく水を補うために、毎日きちんと水を体に取り入れ続けることが大切なのです。

体内に取り込む水の必要量は?

体内に取り込む水の必要量は、性、年齢、身体活動レベル、さらに周辺の気温などによって異なってきますが、それらを算出するための根拠は十分に整っているとは言えず、現時点では必要量として算出することは困難です。なお、アメリカやカナダ、ヨーロッパ諸国では、水の必要量を「目安量」※として設定しています。

  • 目安量(adequate intake: AI):推定平均必要量および推奨量を算定するのに十分な科学的根拠が得られない場合に、特定の集団の人々がある一定の栄養状態を維持するのに十分な量

図:日本人の食事摂取基準について(2009.5)厚労省

水を飲むとどのくらいの時間で体にいきわたるのですか?

飲んだ水が、体にいきわたるのにかかる時間については、実はよくわかっていません。
飲んだ水が体にいきわたるには、いくつかのステップがあります。

  1. 消化管を通って末梢血管に入る。
  2. 末梢血管から、門脈を経て、肝臓を通って大静脈に入る。
  3. 循環器系に入って他の臓器や手足へと運ばれる。
  4. 各臓器や手足に運ばれた水が毛細血管から間質を経て実質細胞に入る。

体に水がいきわたるのに必要な時間は、これらのステップにかかる時間を合計すれば、わかると考えられます。
このうち、3) に必要な時間は、各臓器の含有血液量と動脈血流量からある程度予想できますが、他の時間については根拠となる知見そのものが得られていません。

飲み物の種類によって、体にいきわたる時間は異なるのですか?

異なると考えられます。一般に飲み物には、水以外にも、糖分、蛋白質やアルコールなど多くの成分が含まれています。それらの成分は消化管で消化吸収されますが、それが行われる場所や必要な時間は、成分ごとに異なります。そのため、水が吸収される場所と時間も異なると予想されます。

いったん体内に入った後は、水は、飲み物の種類に関係なく、同じ動きをすると考えられますが、飲み物中にアルコール等の全身の循環動態に影響を与える成分が含まれている場合には、その影響を強く受けると考えられます。しかし、具体的に、飲み物の種類によって、体にいきわたる時間がどのように違うのかは、まだよくわかっていません。

尿はどうやって作られるんですか?

血液中にある水分が、腎臓の中にある糸球体(しきゅうたい)というところでろ過され、老廃物とともに尿細管へと移動します。尿細管の中を通る間に、水の一部が血液に戻り、残った水に老廃物が溶けたものが尿になります。

尿には何が入っているんですか?

尿の中には、血液中からこし出された、体にとって不要な老廃物が溶けています。尿の成分のほとんどは日々摂取する食事と水とに影響され、さらに、個々人の代謝機能の状態が反映されます。尿中の水分子のネットワークを解析することで、身体の代謝機能の状態を明らかにできるのではないかと考えられています。

水はどのように摂るといいんですか?

水分補給の方法として、一気にたくさん飲むのではなく、1回コップ1杯程度(150~250ミリリットル)の量の水を1日に6~8回飲み、1日の必要量(約1.5リットル)を補給するというものが挙げられます。朝起きたとき、通勤で歩いたあと、スポーツをするとき、入浴後、就寝前などにこまめに水を飲めば、水分不足に陥ることなく、また水のとりすぎで体に負担をかけることもなく、疲労回復や健康維持に役立てることができると考えられています。

上級編

水についてわかっていないことは?

私たちは飲みものや食事から毎日数リットルの水を取り、ほぼ同量の水を尿や汗として排泄しています。これは誰もが無意識にやっていることです。どうして、そんなにダイナミックでかつ正確な水のやりとりがなされているのでしょう?そして、その水は体の中をどのようなルートでまたどのようなスピードでめぐっているのでしょう?何故、毎日数リットルもの水を交換しなければならないのでしょうか?意外と簡単そうで難しい疑問が次々と挙がってきます。

生命にとって一番重要な物質ともいえる水ですが、実はこれまで研究があまり進んでいませんでした。多くの研究者たちの目が、水の中で働くDNAやタンパク質の方に向いており、体の中のどこにでも存在する水自体の役割が謎のまま残されていたのです。

水に関わる研究において、鍵をにぎるものは何だと思いますか?

2003年にノーベル化学賞が与えられた、体の中で水分子の通り道となる水チャネル「アクアポリン」の発見は大きなインパクトがありました。米国のPeter Agre博士が1992年に発見したこのアクアポリンは、水を選択的に通すタンパク質で、水とからだの数多くのなぞに対して重要なヒントを与えてくれたと思います。一方、まだまだ十分に答えられないこともたくさんあります。そこで、私たちはアクアポリンの研究から始め、新しい測定技術を開発しながら、生命現象における水分子の役割に対する理解を深めています。

アクアポリン、細胞膜、水の模式図
水のことがわかると体にどういいのですか?

飲みものや食事から摂取された水が、どのように全身をめぐり、どのようにはたらきながら、尿や汗などとして排出されていくのか。理解を深めていくことで、水の飲み方や食事のとり方など普段の生活に直結した健康維持のための知恵が生まれてくると考えています。また、病気との関係性や治療法の開発、足や顔のむくみのしくみ、小顔作りなどの美容まで、様々な応用が期待できます。

【参考文献】
1)Kleiner SM. Water : an essential but overlooked nutrient. J Am Diet Assoc 1999 ; 99 ; 200-6

病気と水にはどんな関係があるんですか?

脳浮腫、咽頭浮腫、肺水腫など、臓器の間質組織に異常に水が貯まってしまうことが病気の原因になります。顔や手足のむくみも同様に、それぞれの組織の間質に水が貯まってしまうことで引き起こされます。肝臓病の末期で起こる肝硬変では、消化管から肝臓へと流れる血流が悪くなり、水が腹腔内に漏れ出して腹水として貯まります。他にも内臓のさまざまな疾患に伴って、臓器内や臓器間の水の流れが変化します。そして、その変化がさらに病気に影響を及ぼしていると考えられます。

水の特徴はどこにありますか?

生命にとって欠かせない水の特徴のひとつとして、物質どうしをつなぎ、溶かし込む性質を持つことが挙げられます。その特徴をつくっているのが水素結合です。これは、酸素原子(O)や窒素原子(N)など電気的にマイナスの原子と水素原子(H)が分子内でつながっている際に、そのHが他の場所にあるマイナス原子と引き合うことで生まれる結合です。水(H2O)はお互いに水素結合でつながりあっており、さらにその中にタンパク質や糖、DNAなどが入っても、それを包み込むように結合を作ります。

水素結合ってどんな結合ですか?

水素結合はがっちりとしたはずれにくい結合ではなく、外からの働きかけではずすことができる結合です。DNAの複製や、酵素と基質の相互作用などついたり離れたりが必要な場面で、水素結合が関わっています。このように、生命の活動には、安定かつしなやかな結合である水素結合がかかせません。

体の中の水はどのようにコントロールされるんですか?

ヒトの身体の各細胞表面にアクアポリンが存在し、水の通り道となって身体のすみずみまで水が行きわたるのを手助けしています。ヒトのアクアポリンはこれまでに13種類が発見されており、からだの部位によって存在するアクアポリンの種類が異なること、またそれぞれのアクアポリンが異なる機能をもっていることもわかってきました。

水の通り道であるアクアポリンはどのように発見されましたか?

水分子がイオンと同様、選択的チャネルを介して細胞膜を透過する可能性は19世紀中頃から考えられていましたが、その実体は20世紀の終わりまで不明のままでした。1992年、Agre教授(米国Johns Hopkins大学)らがついにその正体を解き明かすことになりました。彼らは赤血球膜のRh抗原タンパク質を研究していましたが、その過程で28kDの未知のタンパク質を精製、そのタンパク質に対する抗体を作成し、体内組織分布を調べたところ、水の透過性が高いことで知られていた赤血球膜と腎臓の近位尿細管細胞膜に特に強い発現をしていることがわかりました。そこで、彼らはこのタンパク質こそが水チャネルの実体でないかと考え、アフリカツメガエル卵細胞を用いた実験により、その膜タンパク質が水チャネルに他ならないことを証明しました。赤血球を低浸透圧溶液中に入れると膨らんで破裂してしまうという溶血現象は良く知られていましたが、まさにこの原理を利用した実験でアクアポリンの存在が証明されたのです。

水をコントロールするしくみは他の生物にもありますか?

アクアポリンは、ほぼ全ての生物にあります。最も古い単細胞生物の一種である古細菌にも発現しています。単細胞生物は、周りの浸透圧変化に適応していくためにアクアポリンを獲得したのかもしれません。28億年前に現れた、初めて「水」「二酸化炭素」から光合成を行うようになったシアノバクテリアにもあり、光合成における役割も示唆されています。また、植物は動物よりもかなり多くの種類のアクアポリンを発現しています。環境の変化に応じて動くことのできない植物にとって、水を制御することはより本質的なのかもしれません。植物には、根から水を吸収し、その水は茎を通って移動し、葉から蒸散するという、重力に逆らった水の移動がみられます。そのためアクアポリンが重要な役割を担っていると考えられています。

細胞の膜を水はどうやって通り抜けるんですか?

アクアポリンの穴にその秘密があります。アクアポリンの穴の構造をみると、細胞外膜よりの所で穴の直径は最も狭くなっていますが、この直径は水分子の直径とほぼ同じ大きさです。従って、水分子より大きな分子はその穴を通過することができません。また、その部位にはプラスの電荷が存在し、水分子間の水素結合を分断、プロトン(H+)を排除する重要な役割を果たしていることもわかりました。更にポアの中央部位にもプラスの電荷が存在しており、プロトンの排除を補完しています。アクアポリンの穴は、水分子の双極子(電気的にプラスに偏っている部位とマイナスに偏っている部位の両方を兼ね備えている)としての特徴に即した構造をしているといえるでしょう。また、水分子がアクアポリンの穴を通る速度は非常に速く、1秒間に3x109個の水分子がアクアポリンのポアを通過することになります。想像を絶する速さですね。

アクアポリンはなぜたくさん種類があるのですか?

アクアポリンは、基本的には水分子を選択的に通すチャネルタンパク質です。けれど、アクアポリンの種類によって透過しやすいものが若干異なります。AQP3はグリセリン、尿素やH2O2を通すことが知られています。AQP6は例外的に陰イオンも通します。また、AQP0は、水分子の透過性は低いですが、水晶体の細胞で細胞接着因子として重要な働きをしています。このように少しずつ機能が違うアクアポリンが、それぞれの組織で若干異なった役割を果たしているのです。さらに、ホルモン等によるアクアポリンを調節するしくみも異なることがわかってきています。

アクアポリンがないと、どのようなことが起きますか?

あっという間に脱水症状が起こります。生物が進化の過程で陸にあがったときの最大の課題は、水分をどうやって保持するかということでした。尿は腎臓で血漿がろ過されることで生成されますが、実際に尿として体外に出てくるのはそのわずか1パーセントで、残りの99パーセントは再吸収されて血管内に戻ります。それくらい体内水分保持が大切だったという証だと思います。

そして、この尿を濃縮する過程でアクアポリンが重要な働きをしています。先天性尿崩症という尿が濃縮できない病気がありますが、その患者さんの遺伝子を解析すると腎臓のアクアポリン遺伝子あるいはそれを調節する遺伝子に異常が見つかっています。その他、皮膚における水分保持、涙や唾液の分泌にも関与しているので、それらのアクアポリンに異常が起こるとドライスキン、ドライアイ、ドライマウスといった症状が現れます。

体の中の様々な場所にある水は、お互いに混ざり合ったりするのですか?

私たちの体の約3分の2を占める水は、ただ単に体内に貯まっているのみならず、体の中をめぐっています。血液、リンパ液、脳脊髄液などの間を行き来しているのです。また細胞も細胞膜を介して常に周りの間質液と水の交換を行っています。また、私たちは毎日水分を摂取し、尿などで排泄しています。すなわち、体内の水は常に入れ替わっています。体内の水はとてもダイナミックかつ精巧に調節されているのです。アクアポリンは、これらの水の動きを制御する大切な分子です。実際、様々な疾患でこの水バランスに異常が認められます。

近赤外光ってなに?

光は、波の性質を持っています。波の山と山の間の距離を波長といい、波長の長さの範囲ごとに、「赤外光」「可視光」「紫外光」というように名前がついています。中でも、私たちが目で見ることができる可視光線より波長が長く、赤外線より波長が短い波長を近赤外光(波長:800〜2500nm)といいます。

ある波長の近赤外光は水分子にぶつかると吸収されます。どの波長の光が吸収されるかは、水分子のふるまい方によって変化します。つまり、水に近赤外光を当て、どの波長の光が吸収されたかを調べることにより、水のふるまいを推測することができるのです。

<参考>
普段、私たちが色として認識しているのは、可視光線と呼ばれるおおよそ400〜800nm程度の波長の光です。

それ以外にも、光は私たちの生活の様々なところで活用されています。例えば、赤外光や、それよりさらに波長の長い遠赤外光(遠赤外線)は、物体にあたった際に対象に熱を与えることができるため、ヒーターやトースターなどに使われています。また紫外線は波長が短くなるほど細胞にダメージを与える力が強くなり、波長約250nmのランプが殺菌灯として利用されています。

なぜ水は近赤外光を吸収するのですか?

分子はさまざまな波長の光を吸収しています。水分子が近赤外光を吸収するのは、近赤外光の波長域に「水分子が吸収できる波長の光」が存在するからです。

分子は、エネルギーの低い状態で安定です。この状態の分子に、一定のエネルギーが与えられると、エネルギーの高い状態に遷移します。この時に必要なエネルギー量は、分子によってさまざまです。また、分子は遷移に必要なエネルギーと同じだけのエネルギーしか受け取りません。多くても少なくても受け取らないのです。

一方、光は各波長により異なったエネルギーをもちます。よって、さまざまな波長をもつ光が水を透過すると、水分子の遷移に必要なエネルギーをもつ波長の光だけが吸収されることになります。例えば、800~2500nmの光を水に透過すると、970、1450、1940nmあたりの光が吸収されます。

【参考文献】
尾崎幸洋 (2015). 近赤外分光法 講談社

水溶液の様子も観察できるのですか?

アクアフォトミクスを用いることで、様々な分子と水分子との相互作用を捉えることが可能になると考えられています。

たとえば単原子イオンの場合、水分子はNa+のような陽イオンには酸素原子側を向け、Cl-のような陰イオンには水素原子側を向けます。

これ以外の分子として、NH4+やCO32-などの多原子イオンや、有機物である糖やアミノ酸、より複雑なタンパク質などがあります。これらが水分子と相互作用するには、+やーといった性質だけではなく、溶質の大きさや立体的な相互作用のしやすさなども考慮せねばならず、個々の物質について詳細な研究が必要になります。

一般的には、水分子と水素結合を形成する水素・酸素・窒素原子の周りには水分子が、安定した水素結合を形成するように配置されます。一方、疎水性の高い領域では、水分子は水分子同士で水素結合を形成します。私たちは、現在、各分子の周囲の水分子の解析をおこなっています。

【参考文献】
Tsenkova, R. (2009). Aquaphotomics : dynamic spectroscopy of aqueous and biological systems describes peculiarities of water. J. Near Infrared Spectrosc., 17, 303–314.

近赤外光スペクトルは何によって変わるのですか?

水分子の吸収波長領域の変化は、水素結合の変化を大きく反映するとされています。溶質分子はその形や性質などにより周囲の水分子の分布および水素結合の状態が異なっており、そのために、各物質特有の水溶液の近赤外光スペクトルが得られると考えられています。

また、水素結合は、測定中の温度や気圧などに影響されるほか、溶質分子の濃度などによっても影響を受けます。

【参考文献】
Tsenkova, R. (2009). Aquaphotomics : dynamic spectroscopy of aqueous and biological systems describes peculiarities of water. J. Near Infrared Spectrosc., 17, 303–314.

水を観察する方法は、他にどんなものがありますか?

水分子を調べる方法として、近赤外分光法以外にも、X線分光法、赤外分光法、ラマン分光法、核磁気共鳴(NMR)などさまざまな方法が知られています。検出できる特性がそれぞれ異なるため、それぞれが補い合うことで、水の性質が理解できるようになります。また、近年、分子シミュレーションを用いた水分子の研究も盛んにおこなわれており、各実験データと合わせた解析がおこなわれています。近赤外光法は、水素結合による変化の検出に鋭敏であるとされており、水のネットワークの研究に重要と考えられています。

【参考文献】
Tsenkova, R. (2009). Aquaphotomics : dynamic spectroscopy of aqueous and biological systems describes peculiarities of water. J. Near Infrared Spectrosc., 17, 303–314.

水の動きを見るためにはどんな方法がありますか?

水が勝手に周囲に広がっていく拡散の現象については、直接目で見て観察することが最近までできなかったため、細胞内液や組織液の解明を難しくしていました。そこで、水の流れを直接観察することを可能にするCARS顕微鏡が活躍しています。

CARS顕微鏡はこれまで、おもに物理学や工学の分野において、単純な結晶構造や基盤などの観察に使われてきていました。細胞内の水の動きを観察するといった生物学の分野で使われる例は、世界的にも新しい取り組みです。

CARS顕微鏡のしくみはどのようものですか?

CARS顕微鏡は、ラマン散乱という現象を使った顕微鏡です。散乱とは、物質にあたった光の一部が、四方八方に散らばることで、大部分の散乱光はあてた光と同じものです。しかし、ほんの一部の散乱光は、当てた光とは違った光になって散乱します。これは光のもつエネルギーの一部が水分子とやりとりされたことで起こる現象で、ラマン散乱と呼ばれます。ラマン散乱の仕方は、物質によって決まっています。そこで、水分子に特有のラマン散乱に着目し、さらに2つの光をつかって違いを増幅することで、水を直接観察することができるようになるのです。

CARS顕微鏡を使うと何が見えるのですか?

多くの物質は、複数の原子がつながってできています。実はこのような物質はそれぞれ固有の周波数で小さく振動しています。

CARS顕微鏡を用いるとある特定の周波数で振動している物質だけを光らせて観ることができます。水と重水は異なる周波数で振動しているので、重水を背景として水だけを光らせて、その動きを見ることができるのです。

なぜ水のシミュレーションが必要なのですか?

からだの中を水がどのようにめぐっていくのかは、わたしたちの健康に大きく関わっています。しかし、その水の動きの全体像を正しく捉える方法はまだありません。各臓器や器官での水の動きを捉え、さらにはそれらの情報をもとにシミュレーションすることで、全身の水の動きを理解できるようになるかもしれません。

水のシミュレーションはどのようにするのですか?

現在のシミュレーションでは、動脈の血圧、血液、間質液、細胞水の浸透圧、間質から組織に入るときの圧力などのパラメータを設定し、いくつかの臓器が直線的につながったモデルを使っています。しかしこれは、実際の体の複雑さと比較すると、まだ簡単なものでしかなく、実際の水の流れをシミュレーションする段階には、まだ到達しておらず、今後の開発が期待されます。

どのように水の動きを計算するのですか?

ヒトの臓器をそれぞれ細かな区画に分けて、それぞれ隣り合う区画間の単位時間における微小な水の動きを計算します。その値から臓器内、臓器間、そして人体レベルでの水の動きを算出します。微小区画間の水の動きから、その周りの水の動きとの相互作用を計算することで、もっと大きなスケールでの水の流れが算出されます。全身の水の動きについてシミュレーションを行うためには、人体を無数の微小区画に分けて、膨大な量の精密計算をおこなわなければならず、そのためには非常に高速で大容量なコンピュータが必要となります。

水のシミュレーションは何に役立つのですか?

水の流れのシミュレーションが力を発揮するシーンの1つとして、人工透析の患者さんの治療が挙げられます。腎臓機能を失ってしまった患者さんは、尿をつくることができないので、飲んだ水を排出できず、体の中にどんどん溜め込んでしまいます。人工透析はその患者さんの体から、水を抜く治療です。

人工透析は2-3日に1回行わなくてはなりません。水を抜く前の患者さんは、なんと数日前より5キロも体重が増えてしまっている人がいるほどです。この水は間質にたまっています。

透析では、血液から水を抜きます。まず血液の水がへり、間質から水が移動して、血圧が調節されていると考えられますが、実際はなにが体のなかで起こっているのかはわかっていません。早く水を抜きすぎると、一気に血圧が下がって、失神してしまう人もいるので、シミュレーションを行うことで、水を抜く速さやパターン、(最初は早く、あとはゆっくりがいいのか、休み休みがいいのか、など)の検証に役立つと考えられます。